後悔日誌

深夜テンションで書くブログ。航海日誌ではない。

日本テレビ『先に生まれただけの僕(さきぼく)』第1話を見ながら……

 日本テレビ系列で放映されている『先に生まれただけの僕』という櫻井翔が主演のドラマがある。

 予め「ジャニオタ」と呼ばれる人たちに断っておくと、私はジャニーズも櫻井翔も好きではない。なお、唯一の例外として東山紀之は好きである。

 しかし、それでも今回のドラマは興味深いものである。

 というのも、「総合商社の設定がやたらしっかりしている」のだ。

 総合商社について多少の知識があると「細かいところまで拘っているなあ」という感想に至る(ただし私は「中の人」でもなければ「中の人」だった経験はない)。

そもそも総合商社とは

 「総合商社」と聞いて、何が思い浮かぶだろうか。「五大総合商社」として、三菱商事三井物産伊藤忠商事住友商事・丸紅の名前は浮かぶだろう。しかし、その事業内容を説明できる人は意外なほどに少ないのではないか。

 総合商社とは幅広い商品とサービスを取り扱う、言ってみれば「何でも屋」だ。

 扱う商材は燃料や金属といった資源、電子機器やソフトウェア、繊維やパルプと、枚挙に暇がない。 そしてそれらの商材の「生産から販売まで」、つまり生産地域の開発から輸出入や輸送、販売地域での卸売に至るまでを担う。

他にも最近では子会社のベンチャー・キャピタル(VC)によるベンチャー投資を始め、企業投資も積極展開している。あるいは空港や港湾の運営、インフラ整備にも進出している。

なお、劇中の樫松物産には「教育事業部門」があって、その参加で学校経営もしているというが、実は高校を擁する総合商社は存在しない(※劇中で専務から「学校を買収した」旨が告げられる)。しかし、学校を擁して教育事業を展開していても不思議ではないくらいに、総合商社は文字通り「何でもやっている」のだ。

劇中の「樫松物産」

 劇中の「樫松物産」という総合商社では派閥争いによる社長レースが激しいようだ。もちろん多くの企業で派閥争いや社長レースは見られるが、その傾向は財閥系企業で特に強い。劇中でも社長レースに敗れた専務の一派は左遷されてしまう。樫松物産のモデルは確実に財閥系のどこかであろう(笑)。おそらく金曜日はジーンズで出勤して良いI商事ではなさそうだ。なお、櫻井翔がかつての友人たちと再開する、本社の広い大理石調のロビーはM物産を彷彿とさせる。

 そう思いながら番組公式Twitterを見てみると、次のような画像を発見した。

 「樫松物産グループ 樫松物産株式会社」と描かれた看板。「○○グループ」と強調してくるのはM物産という印象だ。逆にM商事はグループを強調してこない。

 さらに毛筆体の社名というのもM物産を彷彿とさせる。M紅とI商事に至っては社名を漢字ではなくアルファベットで書きたがる。やはり樫松物産はM物産をモデルにしているのではないだろうか。すると子会社に「樫松物産企業投資」とか系列会社に「樫松不動産」とかも登場するのだろうか(笑)。

 なお、三井物産は海外での教育事業を手がけるベンチャー企業に投資したり、英語教育の「レアジョブ」と資本提携・業務提携を図って海外展開支援をしたりもしている。すると未来の話として学校法人や高校を買収しても不思議ではなさそうだ。(ただ、その際に都内の不採算高校を選定するとは思えないが……)

 

 ちなみに専務(高嶋政伸)に秘書(松本まりか)がいるが、この手の秘書は基本的にMARCHクラスの大学のミスコンテスト経験者が「将来の旦那探し」も兼ねて入社してくることが多い。なお、彼女たちは基本的に総合職ではなく一般職として入社してくるが、大学の就職状況には同じく「1」としてカウントされてしまう。(そしてそれを真に受けた高校生が「自分も総合商社に入れる!」と勘違いしてMARCHクラスの大学に入ってくるのである)

櫻井翔を見ながら……

 櫻井翔は劇中当初、弘前で子会社の支店長を務めていた。大手総合商社は若手社員を日本全国や世界各地の子会社に出向させて経営を任せることが多い。それらの経験を積ませることで、将来の経営幹部へと育成していくのだ。

 その営業スタイルも、いかにも「体育会系」という印象だが、ガサツなわけでもなければ偉そうなわけでもない。相手の懐に飛び込んで人心掌握、その後はトントン拍子に話を進めていく。それを素早く─ともすれば無意識のうちに─やってのけるのは、言ってみれば「スマート体育会系」だ。おそらく大学は慶應経済、学生時代は蹴球部に所属していたという設定でもあるんじゃないだろうか(笑)。考えてみれば櫻井翔自身も幼稚舎からの経済学部出身だ。(もっとも、大学でやたら偉そうな「内部進学」には個人的に良いイメージはないし、それが櫻井翔を好きになれない理由でもあるのだが……)

 校長に就任してから各教師と面談するときも、1年目の教師にすら積極的な問題意識を求めて意見を拾い上げようとしている。確かに「若手に積極的なキャッチアップを求める姿勢」というのも総合商社に見られる。会議でも意見を抽出するブレイン・ストーミングも、総合商社を始め多くの大企業で行われている会議形態の一つだ。

描かれる「温度差」

 劇中では総合商社出身(おそらく大学も旧帝大早慶という設定だろう)の櫻井翔が、ビジネスセンスを発揮して学校改革に取り組んでいく。一方で教職員や生徒とは明らかな「温度差」がある。

 第1話のラストシーンもビジネスの世界での「感覚」で生徒に語りかけ、失敗する。

 東芝を皮切りに日産自動車神戸製鋼所といった大企業の不祥事が相次いで報道され、日本企業の信用が失墜していく現状。AI(人工知能)が人類を凌駕する「シンギュラリティ」で不透明感を増す労働市場。それらを読んで、「取って代わられない人材」を目指そうという主張は「人材」として極めて正しく合理的で素晴らしいものだ。

 というのも、少子化による労働人口減少と国内市場縮小やシンギュラリティを前提に「働き方」を議論して、今後のキャリアについて議論してきた身からすると、若いうちから計画的にスキルを得る必要性というのは非常に強く感じるのだ。

 しかし、その「客観的に正しい」キャリア論は高校生、ともすればAIに代替さえにくい「教師」という立場にすら受け入れがたいものようで、劇中では不和が生じていく。

 個人的には生徒の「奨学金……」と呟くに対する櫻井翔の「大変な借金だよ」というセリフと表情が、心の底では「まあ幼稚舎・普通部・塾高と内部進学、『理財の三田』こと慶應義塾大学経済学部出身だけどね…」「父親は東京大学法学部、郵政官僚で総務事務次官まで努めたエリート一族だから、こんなことで悩んだことは人生で一度もないんだなあ…」とほくそ笑んでいるようにすら感じてしまうのは、おそらく私の偏見であろう。(やはり内部進学は好きになれない……)

 

 どうやらドラマのコンセプトは「未来を生きていく今の子供たちに大人は何を教えるべきか、その答えを探す」ことにあるそうだ。おそらく路線としては櫻井翔のセリフに則りつつ、それを生徒や教職員に受け入れられるように浸透させていく展開になるのではないだろうか。

 ジャニーズに興味がない私だが、このドラマには興味と好感が持てる。私の櫻井翔に対する偏見が払拭される、良い意味で「期待を裏切る」作品であることを望む。